【短編】初恋薊
2020年5月10日
花木の美しい彩とともに紡がれる、哀しくて愛しい和風恋愛譚
作品名 | 初恋薊 |
---|---|
作者 | 糸(水守糸子) |
文字数 | 約1万6000字 |
所要時間 | 約30分 |
ジャンル | 恋愛(和風) |
作品リンク | カクヨム(※短編集) 小説家になろう(※短編集) |
レビュー
わたしは、恋をしていた。ずっとあなたに、ながくてみじかい恋をしていた。
四季折々の彩を紬に織り込んではお社に届け続ける頑なで一途な機織り娘と、村の神さまになるために育てられた怠惰で享楽的な少年のお話。
生まれてすぐにお社にさらわれて、「蚕座」に一生とじこめられて、「お蚕様」として人々の求めに応えなければならない、不幸せなひと。どうしようもなく自分が可哀想なのだと知っている、弱くて傷つきやすいひと。
お蚕様の機織り娘として紬を届ける少女・糸にとって、それは始まった瞬間から、いつどうやって終わりが来るのかが分かっている恋だった。
どんなにひどい真似をされても、外の世界の鮮やかな色彩や木々の薫りを紬に織り込んでは少年のもとへ届け続ける少女のひたむきな想いが哀しくて、残酷で身勝手な振る舞いをしながら幼い約束をそっと大事に抱えこんでいるような少年の繊細さが愛しい。
うつくしくてかなしい恋の物語。