【短編】犯罪者には田中が多い
2020年6月17日
流行と偏見の諷刺ドラマ
作品名 | 犯罪者には田中が多い |
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作者 | 柞刈湯葉 |
文字数 | 約1万字 |
所要時間 | 約20分 |
ジャンル | 人間ドラマ(現代) |
作品リンク | カクヨム |
レビュー
どうして僕は斉藤であって、田中じゃないんだ。
「田中が悪い」「犯罪者には田中が多い」―――インターネットミームを契機に「田中」という姓に対する一定の偏見が定着した日本。
少年誌でやや伸び悩み気味のミステリ漫画を連載している斎藤氏は、作品ネームを見た担当編集者から、容疑者の中に「田中」がいると「彼女は犯人ではない」ということが丸分かりになってしまうと指摘されて、その浴衣美人の名前を「吉野」に修正することにする――。
デフォルメがかっているが十二分にリアリティのある社会背景をふまえ、ミステリ漫画家という職業の主人公を軸に据えたストーリー展開が非常に秀逸。理路整然とした語り口で描かれる、流行の形成される経緯と社会心理がちょっと皮肉な笑いを誘う。
一過性の流行に過ぎないくだらないジョークのたぐいだと誰もが理解していながら、名前ひとつに踊らされる社会を淡々と皮肉った短編ドラマ。