【短編】夏の影
2020年7月7日
姿なき影と少女の、喪失へ向かう淡い恋の軌跡
作品名 | 夏の影 |
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作者 | かなん |
文字数 | 約1万4000字 |
所要時間 | 約30分 |
ジャンル | 恋愛(現代) |
作品リンク | 小説家になろう |
レビュー
「俺は姿のないものだよ。お前が俺を見られるのも、せいぜい小学生の終わり頃までだろう」
夏になると遊びにいく田舎の祖母の家で、いつも暗がりに佇んでいる男の人。退屈していた幼い少女・風子は、声をかけてもさっさと姿を消してしまうその人を夏中追いかけ回し、とうとう根負けした彼に遊んでもらえるようになる。名前を聞いても教えてくれないその人を、「影さん」と呼ぶことにした風子は、毎年夏が来ると真っ先に彼に会いに飛んでいくが…。
大人には姿を見ることができないらしい「影さん」――少女はいつしか「その時」が来るのを何より恐れるようになっていた。
目線が近づき、距離が近づいていくにつれ、いや増していく喪失への不安。光を浴びると消えてしまう影のような不確かな存在に惹かれてしまった少女と、長い時間を曖昧な形で存在し続けてきた孤独な男の残滓が、幾つかの夏を共に過ごして心触れ合う切ない現代ファンタジー。