【短編】華燭金魚
2020年8月10日
姫神様の婿君として兄の身代わりをつとめた少女の、決別と決意の物語
作品名 | 華燭金魚 |
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作者 | 篠崎琴子 |
文字数 | 約2万字 |
所要時間 | 約40分 |
ジャンル | 恋愛(和風FT) |
作品リンク | カクヨム |
レビュー
――あに様、あなたが守ろうとしたものの、今際の名残を見てみたかった。まだわたしがきちんとただしく、金魚様の婿でいるうちに。
海辺の町・乙浦で、海神を祀る祭司の家筋である緋瀬家では、代々金魚の姿をとった姫神様と婚姻の契りを結んできた。
当代の婿君であった長兄が出征してしまったため、身代わりとして金魚様の婿君を務める末娘の緑。しかし終戦とともに届いたのは、正当な婿君であった兄の戦死の報せだった。
かくて総領息子を喪った緋瀬家は金魚信仰を畳むことと相成り、金魚様と離縁して世俗の男へ嫁ぐこととなった少女は、金魚様とともに乙浦の町へと最後の逢瀬に繰り出す。そんな彼女らに付き従うのは、金魚様の側仕えとして長らく共にあった少年――。
神代に近しいうつくしく雅やかな世界と、戦争の爪痕を残す人の世の荒廃した空気。流麗な筆致で描きだされる少女の繊細な心情と、幻想と現実の狭間をたゆたうような不思議な世界観に惹きつけられる。
神さまと袂を別って人の男の妻となる少女の想いをたぐる、切なくてうつくしい和風幻想奇譚。