【短編】節穴の末路
生きる意味を見失っていた青年がみつける灯火
作品名 | 節穴の末路 |
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作者 | 七海ちよ |
文字数 | 約1万4000字 |
所要時間 | 約30分 |
ジャンル | 恋愛(異世界FT) |
作品リンク | 小説家になろう |
誰かを愛して、誰かに愛されている奴で、どうしてそんな奴が、誰かに必要とされる人間が、理不尽に奪われなければならない――?
十五の頃に魔物の討伐隊に入り、仲間たちが次々と斃れていく中、とりわけ秀でた能力があるわけでもないのに十年間も無事に生き残ってきた若者・ユーグ。今日もまた、愛する息子を喪って慟哭する母親の傍ら、悪運強く生きのびてしまった彼は呟く。―――これだから神様は、節穴なんだ。
未来に希望を持っていたはずの仲間たちの無念の死と、彼らを愛する人々の悲痛な嘆き。そんなものを数えきれないほどたくさん間近で見て来たユーグが、これまで生きのびてこられたのは、ただひたすらに幸運だったというだけのこと。
………だけど、その幸運が限られたものであったのなら、それを手にするべき人間はもっと他にいたはずだった。
傷つき摩耗しきった心を抱えながら死を見つめる討伐隊の青年の、痛みとぬくもりの物語。
・凄惨な状況に対して、ちょっとのんきそうというか飄々とした空気感の主人公。地の性格もあるのだろうけど、とても死が身近にある生活をしているのだな、というのがワンシーンでわかる。
・危険を冒すことや怪我をすることに対して驚くほど無頓着なユーグさん。帰るべき場所を持たないひと。
・「英霊を称えよ、英霊を称えよ、英霊を称えよ。僕はこれが、大嫌いだった。」誰かが死んだことに意味付けをする慰霊碑と、自分が生きのびてしまったことにこそ意味付けを必要とするユーグさん。
・もともと執着が薄いたちで、だからこそ死んでしまった誰かのことを「自分なんかよりも生きるに値する人間だった」と思ってしまう、その罪悪感からいっそう自分に対して無頓着になる、みたいな無限ループにはまってる感じ。
・「一生懸命で、誰かに愛され、誰かを愛する人。そういう人こそが当たり前に生きるべきだと思った。」そういうものを尊んだり愛おしんだりする感覚を持っているのに、それを自分には縁遠いものと考えている感じに胸が痛む。縁遠いっていうよりも、「すでに失われてしまったもの」かな。
・魔物相手に特攻かけるときに言ってたこれ→「大丈夫だって、僕、身軽だから。」これ、僕は身軽だからちゃんと回避できるよって意味じゃなく、僕なら身軽な立場だから死んでも大丈夫だよ、って意味か…。
・リボンをもらって喜ぶアニーさんのリアクション、めちゃめちゃに可愛いなぁ。嬉しさが前面に滲み出ている感。
・「幸福じみていた」っていう言い方が、擦り切れきった心をあらわしているようで切ない。すごく遠い感覚というか、もう「幸福だ」ってストレートに感じるのは難しいことなのかなって。
・ユーグさんの言動はどう見ても死にたがりのそれなのだけど、でもそうではなくて、本当はただ誰にも死んでほしくないだけなんだなぁ。次々と理不尽に人が死んでいくのを見て来て、どうしてもそれと相対で考えてしまって、なんで自分は死なないんだろって。死んでいった人間がいるから、自分が生きのびた幸運を喜べない。生きなきゃならない理由なんてないのに――彼らほどには、もう。
・「な、なんで、怒ってる……?」いつも朗らかな酒場の看板娘に睨まれてたじろぐユーグさん(笑) 言ってやってくださいよ、アニーさん!
・節穴だったのは、何も見えていなかったのは。
・「僕はきっと弱くなる。君のせいだ、アニー」ありがとう、でじわっとくる。生きたいと思えることこそが歓び。
・エピローグ好き。ちゃんと未来を見て生きようとするユーグさん。そういう未来が来ればいい。