【中短編】死神令嬢と死にたがりの魔法使い : 閑人書房

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【中短編】死神令嬢と死にたがりの魔法使い

2020年10月15日 

不運な少女と拗らせ男の、自殺願望からはじまるラブコメディ


作品名死神令嬢と死にたがりの魔法使い
作者七海ちよ
文字数約8万6000字
所要時間約2時間50分
ジャンルラブコメ(異世界FT)
作品リンク小説家になろう
書籍版ビーズログ文庫(※公式ページ)

レビュー

「結婚するなら責任とってよ!」「いやだ! 僕は今度こそ死ぬんだ!」


叔父の用意した縁談で三度婚約するも、三度とも婚約者に死なれてしまい、まことしやかに「死神令嬢」などと囁かれるようになった貴族令嬢、クシェル・ロッシュ。そんなこんなですっかり結婚を諦めていた彼女のもとへ突然、国からの命令で新たな縁談が舞い込んできた。しかし相手はなんと御年三百歳だという大魔法使いで…!?

時は残酷に流れる。彼だけを置き去りにして――。
死ねない身体で死を切望する、ちょっと偏屈で子どもみたいな魔法使いと、死神に取り憑かれた女といわれた、大らかで割り切りの良いご令嬢。互いに都合の良い相手として夫婦になったふたりが、少しずつ相手の痛みを思いやり寄り添い合っていく過程が、じんわりと心に沁みる。

日課のように自殺を試みる旦那様と、新婚早々夫殺しの疑いをかけられたくない新妻の、切なくもあたたかなラブコメディ。

・「何ともまあ命知らずな。」縁談が決まったと聞かされた娘の反応がおかしい。「どうぞご武運を」そして花嫁を送り出す付き添いの台詞もおかしい。

・なんかかわいいの出た…!! そのかわいいのに「ジトくん」とか呼ばれてる旦那さまは、不機嫌そうな美青年…「僕はおまえに何も望んでいない。」

・愛称かわいいな…ジトくんとクルちゃん。そしてノイくんはお人形さんでしたか。

・小っちゃくて可愛い男の子になごんだ直後に、今まさに首つりしようとする男が目に飛び込んでくるの、心臓に悪すぎるな…。

・「ええい、離せ! 今ならやれる気がする! せっかく今なら死ねる気がするのに!」「勝手なこと言わないで!?」笑いごとじゃないけど笑う。「死にたがりの魔法使い」つっても、いきなりそんなドストレートに、しかも首つりなんていう生々しい手段で死のうとしてくると思わないじゃん?

・「死神令嬢」が「死神令嬢」であるがゆえに結婚したかったジギスヴァルトさん。「もう十分生き過ぎた。そろそろ死にたいと願って何がおかしい」「そんなに死にたいなら離縁して!」どっちも自分の都合で必死な夫婦…(笑)

・すんなり餌付けされる三百歳。ちょっとツンツンした子どもみたいな挙動がかわいい。

・なんという平和なお仕置き…『うっうっ、ふかふかになっちゃうです』ノイくんも可愛いけど、ぬいぐるみに「干すぞ」って脅すジギスヴァルトさんも可愛いな…。

・「きっと、私こそが彼を傷つけたのだと思った。」無神経な発言で怒らせた相手に対して咄嗟に「傷つけてしまった」と思うクシェルさん。「おまえが泣くからだろ!」対して、自分のしたことで相手を傷つけたんじゃないかと過剰に気にするジギスヴァルトさん。どちらも相手の痛みをものすごく気にしていて、まだ距離感は掴めていないけどお互いが大事になってきてる感じ、とてもいとしい。

・「ああ死にたいな、と彼は呟く。まるで息でもするかのような、平坦な声で。だからこそ、何よりもの切望が込められていると感じられる。」「でも、でもね――私は、ジギスヴァルトが死んだら、悲しいよ」

・ノイくん相手にはふつうにデレデレ笑ってるクシェルさんが、旦那さま相手には全然笑ってくれない件。解せぬ…ってしょんぼりしたり、ウロウロ付き纏ってお手伝いしてみたり、して欲しいことをリサーチしてみたりするジギスヴァルトさん。やることがいちいち不器用すぎて愛おしい。

・そんなはずはないと思いつつ、婚約者が三人も死んでしまって、もしかしたら、という不安を抱えていたクシェルさん。「死なないでほしいと思ってしまって、ごめんなさい」死を望む相手に生きていて欲しいと願うことはエゴなのか。

・「おまえは僕の妻のくせに」拗ねてうじうじ恨み言を言うジギスヴァルトさんと、はいはいって雑に聞き流すクシェルさん、好き。やきもちの焼き方がストレートすぎて、なんか子どもの独占欲みたいにしかならないんだよな…(笑)

・「彼の『死にたい』は『寂しい』ということだ。」人を避けて暮らしているのも、これ以上生きていたくないのも、置いて行かれることに耐えられないくらい寂しがり屋だから。どうしても喪失に慣れることが出来なくて、もう嫌だって何度も思ったすえの「死にたい」なんだろうと思うと胸が苦しくなる。「この人の、そばにいたい。それが私の、生きる意味であればいいとさえ、思った。」

・それだけ切望していたことが叶う方法が目の前に転がってきたのに、ひとりで静かに諦めることを決めるジギスヴァルトさん。「部屋で考えて、諦めた。僕は選んだ。僕はもう……死ねなくても、いい」誰よりも自身の生を厭うて、誰よりも他者の死を怖れているひと。たとえ永遠に苦しむことになっても、クシェルさんからは奪えない。

・…に対して、全部手に入れろとばかりの男前クシェルさん。「私があなたを殺してあげる。だから、あなたが私を殺して」すごい台詞だなぁ。ぜんぶあげるから、ぜんぶちょうだい。



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