【長編】魔女問答 : 閑人書房

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【長編】魔女問答

2020年10月26日 

口が悪く偏屈な森の魔女と人懐っこくあざとい貴族青年の連作ラブコメディ


作品名魔女問答
作者秋月アスカ
文字数約15万6000字
所要時間約5時間10分
ジャンルラブコメ(異世界FT)
作品リンク小説家になろう
Libera

レビュー

「ア、アンタ……、どっかの誰かに変なモンでも飲まされたんじゃないだろうね」「まさか。僕は至って正気です」


森の奥のそのまた奥の、薄暗く陰鬱な洞窟に住みついて、黒いローブで日がな一日怪しげな鍋の中身をかき混ぜてみたりなぞしている、しわしわの老婆――そんないかにもな魔女さんには、ここ最近大いに頭を悩ませていることがあった。地方一帯を治める領主家の三男坊である見目麗しい若君が、この恐ろしげな魔女さんのもとへと足繁く訪ねて来ては、切々と悩み事を訴えるのだが――?

忌避されるべき無法者であるはぐれ魔女に怯むことなく、薄暗い森の奥の洞窟に通いつめては能天気にお喋りをする若君と、そんな彼の振る舞いに頭を痛める魔女さんの奇妙な関係性はやがて、さらに奇妙奇天烈な方向性へと進んでいく…。
すっとぼけた美男子に懐かれてしまった、へそ曲がりだけどお人よしな魔女さんに、平穏気ままな魔女暮らしの日々は戻って来るのか!?

魔女として生きることを選んだ女と、ひたむきで人たらしなぼんぼんの、「答え」をつかまえるまでのお話。

キャラクターpickup
魔女
「アンタやっぱり、一晩頭冷やしたくらいじゃまるで目が覚めてないようだね」
「それでも、あたしにとって、“契約”の前ではそうした感情の類なんて一切関係なくなるのさ。依頼を受けて、報酬と引き換えに成果を差し出す。それだけのこと」
「そうさ。私を動かすものは、私自身の矜持だけだ。それを独りよがりと言われようとも、浅ましいと言われようとも、後悔はない」
…森の中の薄暗い洞窟をねぐらとする魔女。偏屈だけどなんだかんだで律儀なお人よし。
オーレリー
「人を愛することに、見た目も年齢も関係ありません」
「分かっています。でも、僕はあなたを信じていますから」
「いいえ、できないわけがありません。僕には二本の足がある。随分と恵まれています」
…地方一帯を治める領主の三男坊。自分勝手でマイペースながら真っ直ぐな気性の人たらし。

・恋愛相談をするために、面識のない魔女のもとにやって来る貴族の美青年…。君の「魔女」に対する認識はどうなっているんだ。お悩み相談室か。

・わんこ系男子の最強アビリティ=「泣き落とし」。こうかはばつぐんだ! …なんだかんだ言って情に脆い、偏屈でお人よしな魔女さん。

・キャラ付けを守るために屋台で買い物するのを我慢する魔女さん…。その「魔女らしさ」を守ることにかける生真面目さは何なんだ。

・水面の上で舞う舞姫のシーン、幻想的でうつくしくて引き込まれる。

・すでに魔女さんが本当は若い娘だと確信しているオーレリー。変人なだけでアホの子じゃない…って普通にたち悪いな?

・魔女さんの有能さ、惚れる。

・ユーベルさんの傲慢さを正面切って批判して、ちゃんと『お願い』させて、そこまでさせたからには引き受けざるをえなくなる魔女さん…(笑) ここの自爆コンボ、二人の性格が出ててすごーく好き。結構似てる印象なんだよなぁ、このふたり。冷静で有能で、真面目で律儀なくせにちょっと露悪的で、しれっと悪役になれたりする感じが。

・また「エリザベス」にされてる魔女さん…。兄弟のネーミングセンスが似てるのか、魔女さんが「エリザベス」っぽいのか…(笑)

・雷雨を呼ぶ魔女さん、めちゃめちゃかっこいい。「これだけ不快な思いを味わったのは久しぶりだよ。理由はそれだけで十分だね? ――さあ覚悟しな」

・黒猫と魔女さんのやり取り、好き。カラスもわりとそんな感じだけど、使い魔ってみんなこんな人を食ったような性格してるの?

・「男に媚びを売らず、自立していて、物事をよく知り、偽善ぶらず、そのくせお人好しな女」………ユーベルさんの女性の好みに「難解な趣味」とかコメントして使い魔たちから立て続けにツッコミを浴びる魔女さん。一瞬顔を出したフラグが、おっ、て思う間もなく四散するのが見えた…(笑)

・「もはや、魔女は魔女なのだ。それ以外の何者にもなれないことは、自分が一番よく知っている。」「何者にも束縛されない。それが、魔女を魔女たらしめる全てである。」国家魔術師の父と決裂して、城を飛び出して、でも別にそれによって何がしたかったとかいうことではないのかな。親を捨てたことも、人と繋がろうとしないことも、すべては彼女が「魔女」として生きることを選択したという、ただそれだけの話。

・オーレリーからのお礼を断る魔女さん。「何もないんだ、本当に」すっかり絆されているくせに、繋がりそのものを静かに拒絶するようで切ない。

・そんなへそ曲がりの魔女さんを、一年ごしでとうとう観念させるオーレリーさん。「とんでもない。これは、僕の人生をこれ以上なく満たしてくれる恋でもあるのです」互いに縛り縛られることは幸福でもある。

・リシュールさんは自分のことを、あまり本人の人柄にそぐわない「魔女」の型に嵌めようとしている向きがあって、縛られることを嫌がるくせに、時々ちょっと窮屈そうに見える。悪ぶって人との間に一線をおいていることに、単に捻くれているだけじゃない、自戒的な意味合いが含まれているというか。気ままな一人暮らしを気に入っているというのも嘘ではないんだろうけど、まだちゃんと割り切れていないものが色々あるんじゃないかな。本人は家を出たときに生き方を決めてしまったつもりでいるけど、リシュールさんが本当の意味で自分だけの生き方を見つけるのは、まだこれからなのかもしれないなぁって思う。

・だからこそ、ぜんぶ取っ払った「ただのリシュール」を見てくれたオーレリーは特別だったのだろうな。オーレリーに降参したことで、リシュールさんがこれまで「魔女の顔」の下に抑圧してきた「自分」をもっと大事にできるようになっていけるのであればいいな。



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