【短編】月下世界紀行 蝶の世界
砂漠の街の駅舎で不思議な楽師と出会う、旅人の異世界紀行
作品名 | 月下世界紀行 蝶の世界 |
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作者 | 椎堂かおる |
文字数 | 約7000字 |
所要時間 | 約15分 |
ジャンル | 異世界風土記 |
作品リンク | カクヨム(※連作短編集) Pixiv(※連作短編集) |
レタ・ニ・ヌイ、サマ・ギータ・ロワンナ。歌え兄弟たちよ。心の弦を奏でて。この夢がいつまでも、終わらぬように。
とある旅人の異世界紀行。忙しなげな喧噪に満ちた砂漠の街に降り立ち、駅舎の隅で食事にありつこうとしたところで、腹を空かせた旅の楽師に出会う。
かしましい駅舎の片隅に響くうつくしい歌声と、まるで聞こえないように行き過ぎていく人々。
せわしない日々の中のふとした瞬間にも、ちょっとばかり用事のことを忘れてのんびり足を止めてみたら、もしかしたらとてもうつくしいものに出会えるのではないかって、じいっと耳をすませてみたくなる。
不思議な夢を見たあとみたいに、ちょっとぼうっとしてしまうような、幻惑的な歌語り。
…大河の船着き場で街へと買われてゆく娘を見かける、旅人の異世界紀行
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…世界の終わるところを見にゆく、旅人の異世界紀行
・忙しなくて騒々しい、異国の駅舎。ちょっと隅の方のベンチで、食いそびれて冷たくなってしまった食事にありつく。この「旅の道中」の感じ、すごーく好き。
・涼しげな声、朗らかにうたうような口調、悲壮感の見えないあっけらかんとした笑顔。ついつい引き込まれるような魅惑的な青年。
・そんで、すっごいズケズケ言う…。「嘆かわしいことだよ、今の世の中は。俺みたいな天才楽師が食い詰めるなんて」
・うつくしい歌声と、まったく反応しないで各々の話を続ける街の人々。
・「もの皆、生まれ出る創世の森よ、レタ・ニ・ヌイ、サマ・ギータ・ロワンナ」創世の秘密を詠った歌。喧噪に満ちた異国の駅舎から一転、舞い飛ぶ蝶たちがうたう、奇妙で幻想的な世界に連れていかれる。
・レタ・ニ・ヌイ、サマ・ギータ・ロワンナ、ってなんか頭に残ってしまうな。奇妙だけれどうっとり聞き入ってしまうような。白昼夢でも見ていたような。魔性の生きものに誑かされたような。
・「たとえば夢を忘れたような街の人々にも、かつては蝶だった頃を、憶えている者がいないとも限らない。」
・あると思わなければ存在しない、見ようとしなければ見えない、聞こうとしなければ聞こえないものみたいな感じ。私もきっと見えない方じゃないかな。創世の秘密も当然憶えてはいないし、うつくしい声が歌っていても、無数の蝶が舞い飛んでいても、気がつかない側の人間だという気がする。
・私にとって物語を読むというのは、誰かの目と耳を借りて、こういう普段見られない世界を覗いてみることなのかもしれないな。