【短編】月下世界紀行 河を渡る : 閑人書房

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【短編】月下世界紀行 河を渡る

2020年10月21日 

大河の船着き場で街へと買われてゆく娘を見かける、旅人の異世界紀行


作品名月下世界紀行 河を渡る
作者椎堂かおる
文字数約8000字
所要時間約15分
ジャンル異世界風土記
作品リンクカクヨム(※連作短編集)
Pixiv(※連作短編集)

レビュー

「いやいや、この河岸で本当に怖いのは人食い魚などではない。船に乗ってやってくる人買いだ」


とある旅人の異世界紀行。密林の中を流れる雄大な大河の船着き場で、人買いに買われてゆこうとするうつくしい娘を見かける。

なんでも食ってしまう人食い魚が棲んでいるという河。街へ買われていくらしい娘に追いすがる若者と、それを嘲る人買いの男。そして、ドラマティックな事の顛末を固唾をのんで見つめる人々…。

痛快ドラマの傍らで、それを眺める群衆の中に思いがけず自分の真顔を見つけてしまうような、ちょっと背筋のつめたくなる物語。

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(連作短編ですが、ひとつひとつが独立した物語で時系列要素は一切ないので、どこからでも読めます。)

・じめじめとして暑い密林、大河の船着き場。船を待ちながら地元の老人と世間話をする旅人さん。河にはなんでも食ってしまう人食い魚が棲んでいるという…。ア、アマゾンだ、ピラニアだ、カンディルだ! しかし旅人さんは旅人さんであって探検隊ではないので河を渡りたいだけのもよう。。

・押し黙ったまま人買いについてゆく、赤銅色の肌をした娘。こわばった美しい横顔が目に浮かぶような。

・さっき振り切るように投げ捨てた「約束のお守り」を、河に落としてしまったと叫ぶ娘と、それを聞いてためらいなく河に飛び込む勇敢な恋人。「行かないでくれ、ナナニータ」「お前のためなら、ジャガーだって素手で殺してみせる」

・ナナニータさんはけっこう実際的な性格なのだろうなって思う。愛だけじゃ食ってけないことは、きっとよく知っていて、そのうえでの選択と覚悟が潔い。レオニートさんの「一緒に戦ってくれ」もすき。

・ナナニータさん口悪いな…「豚野郎」…(笑)

・手を出そうとしないで黙って事の顛末を見ている人々の、同情はしてるけどあくまでエンタメとして消費しているみたいな感じ、その中に自分の目が混じっていると思えて、ちょっとギクッとする。人買いさんにクリティカルヒット入って、してやったりって顔してるほう。

・顔に傷をつくったまま、血を好む魚の棲む河に飛び込む男と、それを戦慄の目で見守る人々。生きたまま魚に食われて絶叫する男を、固唾をのんでみんなで見てる光景、めちゃめちゃ怖い。凄惨な光景そのものじゃなくて、それを見ている無数の視線にぞっとする。

・こ、怖い話だった…。なんか「面白いドラマ」になってたのが怖かった。映画館とかで思い出して怖くなりそうな気がちょっとする…。テレビ見てるときに画面が暗転すると自分の真顔が映ってて一瞬ひやっとするみたいな感覚にもちょっと似ている。



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