【短編】月下世界紀行 早暁に発つ : 閑人書房

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【短編】月下世界紀行 早暁に発つ

2020年10月19日 

妖精の湧く沼を訪れる、旅人の異世界紀行


作品名月下世界紀行 早暁に発つ
作者椎堂かおる
文字数約1万3000字
所要時間約25分
ジャンル異世界風土記
作品リンクカクヨム(※連作短編集)
Pixiv(※連作短編集)

レビュー

全ては瞬く間の、ほんの一瞬のできごとだ。それに、どれほどの意味があろう。


とある旅人の異世界紀行。妖精の湧く沼があると聞き、山間にある古い森の奥を訪ねる。妖精たちは年に一度、夜明けに羽化して夕刻には死に絶えてしまうというが…。

日が昇ってから沈むまでの間、古い森の中の小さな沼の周辺だけというごくごく狭い範囲で完結する、とても短く儚い生涯。―――そんな妖精たちを眺めながら思うことは。

誰よりも遠くへ行って、知らないものに出会いたい、見たことのないものを見に行きたい。物ぐるしいような激しい憧憬がわき上がる、旅に恋する物語。

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(連作短編ですが、ひとつひとつが独立した物語で時系列要素は一切ないので、どこからでも読めます。)

・「妖精の湧く沼があると聞き、私は早暁に街を発った。」一文めからもう引き込まれるなぁ。妖精の湧く沼!

・妖精が虻や蚊の仲間みたいな言われようをしていることに、ちょっと困惑する旅人さん。「いるところには、いるものか。そして、いるところでは、ありふれたものなのか。」

・古くて巨大な楡の木と、濁った水を湛える沼。木に話しかけられてビックリする旅人さんと、偏屈で会話に飢えてるお爺ちゃんみたいな古木。

・自分にとって普通じゃないこと(妖精がいたり木が喋ったり)は、旅人さんにとっても普通じゃないこととして描かれているから、旅人さんの目線で安心してそのまま入っていける感じがする。

・「敢えて見るまでもないようなものだよ。取るに足らぬ連中だ。暁に生まれ、日没にはもう死に絶えるような、哀れな者どもだ」…妖精ってやっぱそんな扱いなの?

・朝日とともに一斉に羽化する妖精たち。繊細で美しい生きもの。

・その美しい生きものが大量に、ビシバシぶつかり合ったり獣に食われたりしながら騒々しく飛び回っている…。お、おぅ…。なんというか、幻想世界の住人みたいなフワフワしたイメージが、生々しい生命のエネルギーに覆されるというか、圧倒されてしまうというか、な、なんかちょっと思ってたんと違う…。

・次々と大量のカップルが成立していく中での気まずすぎる食事………からの、猟奇的な捕食シーン。ちょっとどころじゃなく思ってたんと違う!!?

・朝日が昇ってから沈むまでの間の、ほんの瞬く間の出来事。「だがそれは、我々人の子の生涯と、どう違うだろう。」

・自分の生きている世界がとんでもなくちっぽけに思えるような、物悲しいような、途方にくれるような、それでいてちょっとうずうずするような、わき上がってくるものがあるな。

・「世界は本当に、広いなあ」ありふれた人間の世界の話を、目新しい素晴らしい世界の出来事のように語る小さな冒険者さんに、ちょっとこみ上げる。

・二度目の朝日を見た妖精。「僕は確かに、結婚相手もいない間抜けだけど、でも幸せでしたよ。僕より遠くまで飛んだ妖精は、後にも先にも、現れないと思います。後にも先にも……」

・旅に生きた妖精を大馬鹿者と言い捨てる古木と、それに言い返す旅人さん。「同じ旅に生きる者として、彼を尊敬する」よくぞ言ってくれた…。

・なんというか、猛烈に旅に出たくなるな。誰よりもうんと遠くに行って、見たことのないものを見てみたいような。

・ラスト、すごーく好きだなぁ。もっともっと遠くの町を見に行けたら、って言っていた小さな旅人さんと、二人連れで世界中を見て回る。

・空気感がめちゃめちゃに濃厚で引きずり込まれた…。30分程度しか経ってないって感じが全然しない…。



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