【短編】月下世界紀行 木樵の王 : 閑人書房

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【短編】月下世界紀行 木樵の王

2020年10月20日 

森の上王の即位式の祭りを見物にきた、旅人の異世界紀行


作品名月下世界紀行 木樵の王
作者椎堂かおる
文字数約1万3000字
所要時間約25分
ジャンル異世界風土記
作品リンクカクヨム(※連作短編集)
Pixiv(※連作短編集)

レビュー

讃えよ王の中の王、森の上王を。真の英雄にして、決して奢らぬ木樵の王。


とある旅人の異世界紀行。絶え間なく戦を繰り返してきた、森の小さな国々。それらを統一せしめた上王、木樵の王と呼ばれるその人の、即位式の祭りを見物しにやって来たのだが…。

「木樵の王」として、建国の父として、この国の民に崇められる銅像は、果たしてどんな姿をしているべきだろうか――?
追いかけて追いかけて追いかけて、どうあっても追い抜けない背中がある。誇り高き木樵の国。その建国前夜を駆けた、名もなき一人の英雄と、英雄になれなかった男。

讃えよ王の中の王、真の英雄を! 快哉を叫びたくなるような、心わき立ち胸の熱くなる、とある英雄の物語。

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(連作短編ですが、ひとつひとつが独立した物語で時系列要素は一切ないので、どこからでも読めます。)

・「勝利は奪ったが、侵略はしなかった。彼らはただ、敗北したくなかっただけなのだ。」誇り高き木樵の国。さらっとした背景描写が熱くて、これから訪れる旅先への期待感が高まる。

・倒木に襲われる旅人さんの「まさか私の上に倒れたりはすまい。そのはずだ。」って、笑いごとじゃないんだけどちょっと笑ってしまうな。このひとはあくまで傍観者だから、あんまり「物語の中の登場人物」って感じがしないというか、妙に親近感が沸く。

・「なにをやってるんだね、そこで」「あなたの伐り倒した樹に足を挟まれまして……」なんだか間抜けなやり取りだなぁ。

・まさかの王様…。え、そちらこそ、一体なにをやってるんだね!? えらい気さくな御方だ…。

・「彼は私に相談していた。通りすがりの旅の者に。ただ行き過ぎるだけの、土地にも血筋にも何の縁もないものに。」尊大さがなく、気さくで、人の話によく耳を傾ける名君が抱えた悩み事とは。

・「ついては今から身を投げるゆえ、そなたたちは戦いなさい。森の男の誇りを見せよ」潔く死んでいった、森の国の誇り高き姫君。これは燃えたぎる。

・許嫁の国を見捨てて逃げ出すつもりだった王子と、死にゆく姫君を腕に抱き、勇猛果敢に立ち上がった名も無き木樵の男。「私に足りなかったのは、勇気だけだったのだ。一命を賭して戦う、向こう見ずな勇猛さが」

・援軍を出す支度を調えて、だけどすぐには戻らずに英雄が死ぬのを待っていた。この時点でもう完全に負けてしまっているのだな。英雄が英雄のまま死んでしまったことで、なおのこと越えられない壁になった。

・「果たして私は英雄として、男として、この木樵の男を越えられただろうか。」誰がそうだと言ったとて、陛下ご自身がそう思うのは難しいのではないか。

・陛下を気の毒がる旅人さんも好きだなぁ。「その背を追うからこそ、踏破できる道のりがある。そしていずれは、その背に感謝する。」「あなたもよくやったと、一言言ってやりたかった」

・ラストやっばいな…めちゃめちゃに胸が熱くなる。「彼は己に打ち勝った。その戦いの勝利こそが、彼を真の英雄にするだろう。」誇り高き木樵の国の、偉大な英雄を讃美せよ。



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