【中長編】虚斬り平蔵 ~おっさんと幼女の魍魎退治記~ : 閑人書房

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【中長編】虚斬り平蔵 ~おっさんと幼女の魍魎退治記~

2020年10月29日 

架空江戸時代、自堕落浪人と人外幼女がともに戦う痛快バトルファンタジー


作品名虚斬り平蔵 おっさんと幼女の魍魎退治記
作者道草家守
文字数約12万字
所要時間約4時間
ジャンル和風アクションFT
作品リンク小説家になろう
カクヨム

レビュー

「さやはへーぞーのさやがみなの。さやがへーぞーをさむらいにするの」


江渡城下でその日暮らしをしている浪人の平蔵は、ある夜、酒に酔った帰り道に美しい拵えの刀を一振り手に入れる。翌朝、長屋で目覚めた平蔵の傍らに刀とともにちんまりと座っていたのは、ひとりの美しい童女だった。
心の虚に入り込み、人の精気を食らう“虚神”を断つことの出来る唯一の存在である“鞘神”――人の姿をとり自ら抜き手を選ぶという鞘神様に、何故だか見初められてしまった平蔵は、お江渡を騒がす怪事件に巻き込まれていくが…!?

あるじとさだめた男を一途に慕う幼い鞘神様と、自堕落に暮らしながらも心に抜き身の刃をいだく男。
たがいに心を預け合うようになっていく二人の軌跡と、面倒くせぇなとぼやきつつ決して折れない刀を抜く男の背中に、たまらなく胸が熱くなる。

世を拗ねたおっさんと内気でひたむきな幼女が魍魎退治に奔走する和風怪奇活劇譚!

キャラクターpickup
平蔵
「誰でもやっとうで身を立てたいと思っているんなら大間違いだ。そもそもまともに働きたくねえんだっての」
「抜いた時は命の取り合いだ。どっちかが死ぬまで収められねえ。こんなつまんねえことで抜く必要はねえんだよ」
「俺は、もうどこにも飼われねえって決めたんだよ。これからもずっと一人だ」
…腕は立つがガラの悪い浪人。最近は深河の妓楼で雇われ用心棒をしているが、基本的にはその日暮らしの根無し草。
さや(蘇芳)
「へーぞーのところにいる。じぶんで、えらんでいいって、いわれたもん」
「へーぞーはおれない。こころがおれないかぎり、やいばもおれない。さやがおらせないもん」
「さやは、へーぞーのさやだから、へーぞーにしたがうよ」
…長く抜き手を選ばずにいた鞘神。うつし身の姿は四、五歳くらいの美しい童女。
玖珂くが しのぎ
「わたしは鞘神様の意志をなるべく尊重して差し上げたいのです」
「こちらは虚神と虚神憑きによる犯行と推測されます。我ら虚神狩りの領分です」
「あの物言いなんですか! 平蔵さんを物みたいに言って! 平蔵さんは抜き手にも匹敵する剣士ですし、わたしのお手伝いをしてくださった立派な仲間なんですぅ!」
…虚神狩りを家業とする将軍家直参旗本・玖珂家で抜き手として働く少女。相棒の鞘神は春暁。

・『なあお前さん。その刀、いらねえんだったら俺がもらおうか』人はそれを追い剥ぎという…(笑)

・平蔵さんに売り払われることを警戒してしっかり人の姿をあらわしておいたり、でも外が怖くて平蔵さんの袖をつかんだり、歩きなれてなくてすぐ転んだり、すぐ転ぶくせに質屋から平蔵さんのとこには頑張って一人で歩いて帰ってきてたり、平蔵さんが他の刀を差してたらやきもちを焼いたり。幼い姿の鞘神さまが一途で不器用でいじらしい。

・美形の童女を片腕に抱えるガラの悪いおっさん…。「あんた、女衒にまで手を出したのかい!?」もうそうとしか見えないよ(笑)

・鎬さんめっちゃいいな。世間知らずでちょっと天然入ってて、凛々しくてまっすぐで、だけど結構ちゃっかりしてるところもあるみたいなこのキャラクター。

・「へーぞーはどうしたいの」行灯の明かりの中に浮かび上がる童女。美貌がきわだって、人の子にはとても見えないような、ちょっとぞくぞくするワンシーン。「問いかけられるそれは、果たして聖なるものか邪のものか。」

・目的が一致して、蘇芳さんとともに戦うことにする平蔵さん。「じゃあ、付き合え」「あい」この短いやり取り、すでに相棒感あって良いなぁ。

・羨ましい妬ましい。現状が苦しいと、自分の持っていないものばかりが目についてしまう。

・「“我が魂を刃となせ”」「あい」初めてのはずなのにめちゃめちゃ息が合ってる感じというか、おっさんと幼女のバディ感、最高にかっこいいな。肝が据わっててほとんど動じない平蔵さんと、平蔵さんをまっすぐに信頼している蘇芳さん。

・「理不尽は山のように転がっている。見て見ぬふりをしたほうが楽だと知っている。だが平蔵は、己の関わったものが、害されて黙っていられるほど、利口でもないのだ。」基本かったるそうでガラの悪いおっさんなのに、ちょいちょいカッコいいんだよなぁぁぁ

・相手が立ち去ってから、思い出したように「にしても、あの人失礼でしたねっ」ってぷんすこする鎬さん。性格の良さが滲み出てるというか、きりっとしてるけど基本はおっとり系というか、ちょっと抜けているというか、かわいい人だなぁ。

・ちょっと卑屈でひねくれた言動の多い平蔵さんに対して、「へーぞーはすごい」って言い続けて、平蔵さんが人から認められたら嬉しそうにする蘇芳さん。使い手の魂を刃にするという鞘神様にとって、誰に使われるかということが非常に重要だというのは何となく分かるけど、蘇芳さんには「魂」ってどういう風に見えてるのだろうな。一番最初に「とうとう出会えた」ってあったけれど、あるじを見初めるのは一目惚れに近い感覚なのか。

・敬愛する主君のためと信じて剣をふるってきたことが主君の心を追いつめた。虚神憑きに堕ちてすら、雪宗様の描写が全体的にうつくしすぎて切ない。

・「すべてが裏切られてもなお、平蔵は何かのために刃を振るいたいと願う心を捨てられなかったのだ。」「このひとのこころをつらぬかせたいっておもったの。へーぞーにさむらいでいてほしかったの」蘇芳さんの心からの望みが、平蔵さん主体なところ。ああ最初っからちょいちょいもの言いたげにしてた蘇芳さんは、ずっとそういうことを考えていたのかって思うとちょっとこみあげる。

・「不意を打つとは卑怯ではあるまいか!」敵に卑怯と言わせる平蔵さん(笑) 変身シーンはどんなワルモノでも待たなきゃ駄目なんだよ!

・「俺は武士じゃねえ、侍でもねえ――虚斬りとでも名乗ろうか」かかかかっけええええええ

・ちょいちょい平蔵さんの言った台詞をなぞって言ってる蘇芳さんが可愛い。でもこれ、そのうち口の悪さがうつるのでは…(笑)

・蘇芳さんが手を伸ばせば、毎度求めに応じて抱き上げてやったり手を繋いでやったりするところ、どちゃくそかわいいな。蘇芳さん=刀じゃなくて、平蔵さん=刃で蘇芳さん=鞘っていうのが、二人の関係性にもあらわれている感じ、すごーく好き。



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