【中短編】幼馴染の自動販売機にプロポーズした経緯について。 : 閑人書房

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【中短編】幼馴染の自動販売機にプロポーズした経緯について。

2020年11月4日 

自動販売機の付喪神と、彼女の姿が見えてしまう神社の息子の純愛ラブコメディ


作品名幼馴染の自動販売機にプロポーズした経緯について。
作者二宮酒匂
文字数約7万2000字
所要時間約2時間25分
ジャンルラブコメ(現代FT)
作品リンクカクヨム
書籍版KADOKAWA(※公式ページ)

レビュー

「機械か妖怪かという相手に……! さ、最悪だ僕の青春!」


古びた文房具屋の前にある自動販売機のそば、蛇の目の和傘をくるくる回しながら、楽しそうに古風な歌を口ずさむ和服美人。他の人には見えていないらしいそいつを、“僕”がはじめて見かけたのは、小学校に上がるよりも前のことだった。
最初は浄めの塩で退治してやろうとしたその「おばけ」に、うっかり不毛な恋心などを抱く羽目になってしまうのは、それよりずっと後の話――。

人ならざる女の歌ううつくしい詩歌が、ふんわりノスタルジーの香る田舎町のあたたかく澄んだ空気の中に心地よくいざなってくれる。
清雅な雰囲気ながらコミカルで楽しく、思わずくすりとくるような軽妙痛快な掛け合いと、ちょっとじわっとくるような切ない心情描写の緩急で、テンポよく先へ先へと読み進めてしまう。
能天気でとぼけた付喪神に振り回される青少年の長い初恋の行方や如何に!?

お人好しで子どもみたいな人外美女と、やや捻くれ者で愛情深い少年の、清々しい青春純愛ラブコメディ。

・女の子つよい。高校で離れる前に最後のバレンタインデーに告白…ってもっと甘酸っぱい雰囲気になるものだと思っていたよ(笑)

・「予想外にフリーダムな行動」をとって子どもを怯えさせる人外、そしてその顔面に塩をぶちまける小学生…。ダメージ(※物理)を与えることに成功してるのが笑える。塩が目に入ったらふつうに痛いよ!

・「缶が買われたときに音楽が流れる機能」が壊れちゃったから代わりに歌ってた、って地味に面白すぎない? あの歌ってそういうアレだったんだ…。「失敬だね。そんな催眠音波商法してないよ」そして自覚のないセイレーン。

・「いいトシした見た目のくせになにが妖精だよイタイタしい」「いい匂いの生ゴミばらまいてるだけ」「うさんくささ極まれりって感じ」小学生男子のツッコミが切れ味鋭すぎて涙ちょちょぎれる。子ども特有のグッサリくるやつ(笑)

・同じ人工物の立場から、ろくに読まれもしないまま捨てられたエロ本に同情する自販機ちゃん。「なんで現代の人間は自分たちが生み出したものをろくに使ってあげもしないんだい……」付喪神さんに言われると重みが違うな。

・「『手術』したら……治るのかと、おもってた」「悲しませてごめん。たいしたことができなくてごめんなさい」そうだと信じたくて「治る」って断言した少年と、それを信じた自販機ちゃん。切なくて悲しくて胸が痛くなる。

・「誰よりそばにいて安らぐ友達で、姉みたいなもので、母さんのことで恩がある相手。それらの絆まで、一時の気の迷いで壊したくない」初恋相手である以前に、お互いにとても大切なひとでもある二人の関係がたまらなく好き。

・衒いなく親愛の情を示す自販機ちゃん、めちゃめちゃかわいい。「外見キツネ系美女、中身ワンコ系。」

・少年はまるっきり恋愛対象外…とかいう以前に、そもそも自分が恋愛をするという発想がなさそうな自販機ちゃん。それに対して、いちいちドギマギさせられて内心悪態ついたりしてる少年が、気の毒で可笑しい。おっきくなったなぁ。そして順調にこじらせているなぁ。

・「俺はあの軽薄な風習が嫌いだ」「欲しいです! ください!」熱い掌返し、来るとは思ってたけどテンポ良すぎて笑う。いちいちワードセンスが光りまくっているなぁ。

・「これまでは、彼女はいつまでもいてくれる存在だと根拠もなく思っていた。」「思ったよりずっとあやふやな、狭間に生じた夢幻のようなあり方だった。」昔からずっと姿が変わらない人外の自販機ちゃん。きっとずーっとそのままいて、なんだったら少年のほうがいずれ送られる側になるみたいなイメージでいたけど(少年がそう思ってたから)、むしろ彼女のほうこそがとても儚い存在なんだ、ってここでガツンとくる…。

・「消えるな。いやだ」「おまえのところに缶を買う客がだれも来なくなったって、そいつら全員合わせたより俺一人のほうがずっとおまえのことを欲してる」

・恋愛音痴の自販機ちゃんが少年を意識しまくってるの、どちゃくそ可愛いな。

・「のろけかっつーの。聞くかぎり相手がウブいだけだ、完全に脈ありだろ。その女あとすこしでオちる」「マジで!?」こっちの幼馴染ふたりも、悪友感あってすごい好き…(笑)

・「いっしょにいたいよ」「消えたくないよう」切ないシリアス展開から、突然の謎シチュサービスシーン。「…………何やってんだおまえ」こういう時、どんな顔をすればいいか分からないの。

・「破廉恥な衣装」「頭おかしい布きれ」と認識してるのにとりあえず着たんだ…(笑) 「消えるときは君がくれた服を着ていようと思った」って、言ってることは可愛いけど、本当にその姿で消えちゃったら何かもう目も当てられないよ!?

・こう、さらっと神道を絡めてくるとことか、深追いしないのに浅くもない、コミカルで軽い読み心地を邪魔しないけどがっつり奥行きがあるみたいな感じ、神がかってる。すき。

・リミッター外れてガンガンに押しまくる少年と、ウブで押しに弱い自販機ちゃん。くわえて、知人の熱烈な告白シーンを映画観るノリでチョコ齧りながらがっつり鑑賞する元同級生。みんな変でみんな良い。

・「なら君は自販機を孕ませた|機械性愛者《オートエロティシスト》だよこの性的倒錯者のど変態!」嫁からの罵倒がひどい。めちゃくちゃいらん語彙が増えている…(笑)

・コミカルなんだけどノスタルジックで、「ふるさと」の印象がすごく強いおはなしだった。望郷の歌からはじまって望郷の歌で終わる構成、うつくしいなぁ。――かなたへ、君といざ帰らまし。



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