【大長編】白兎と金烏 : 閑人書房

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【大長編】白兎と金烏

2021年4月10日 

さだめに立ち向かう少女と青年の旅路を描く和風ファンタジー


作品名白兎と金烏
作者糸(水守糸子)
文字数約53万字
所要時間約17時間40分
ジャンル和風ファンタジー
作品リンクカクヨム
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書籍版富士見L文庫(※公式ページ)

レビュー

まだ、残っている。何を奪われても、選び取る自由が、自分には残っている。それはどんな理不尽も奪い取ることができない、かさねの「道」だ。


急遽きまった婚姻で、新月山のお狐さまのもとへと輿入れしてきた莵道の末姫・かさね。しかし狐神への嫁入りとは、贄として喰われることを意味していた! 偶然盗み聞いた会話からそれを知ってしまい、逃げ出そうとしたかさねの前に現れたのは、金の目を持つうつくしい青年・イチ。今ここで狐に喰われるか、自分に盗まれるか選べとかさねに迫る男の目的は――!?

他者を、自分を、信じる意思。ゆくべき道をみずから選び取る矜持。大切な誰かを想うひたむきさ。そして、分かちあい満たされる愛おしさ。
濁りがなく真っ直ぐなひとの思いが、つよく、ふかく、胸を打ってやまず、気づけば彼らから目が離せなくなっている。
迷い傷つきながら進んでいく二人が、何と出会い、何を望んで、何処へ向かうのか。心揺さぶられずにはいられないその旅路をどうか見届けて欲しい。

大らかで前向きな姫君と、口が悪くて無愛想な青年の道行きを辿る、和風幻想浪漫譚。

キャラクターpickup
莵道うじ かさね
「い、今のは腹の虫ではないぞ! かさねは妙齢のおなごゆえ、腹が減ったくらいでお腹を鳴らしたりは」
「だーいじょうぶじゃ、かさねは。わりとしぶといし、機転も利くし、なによりこの美少女ぶりよ。古今東西、神でもひとでも、美少女には弱いゆえな」
「かさねはここいる者たち皆を助けたい。手を貸してくれるか?」
…小国・莵道の末姫。白銀の髪に赤目を持つ自称美少女。箱入り育ちでやや能天気ながら、思いやり深く前向きで芯の強い少女。
イチ
「あんたが何を信じようが勝手だけど。助けたぶんの代償は払ってもらう」
「話したくないときは話さなくていいし、笑いたくないときは笑わなくていい」
「おまえはそうやっていつもいちばんぼろぼろになる」
…天の一族の血を引く黒髪金目の美青年。目的の為なら自分も他者も傷つけることを厭わない、口の悪い朴念仁。

【序幕 天都探索編】

・幼くて甘えただけど鷹揚さもある、可愛いお姫様。…に対して、差し迫った状況で選択を迫る酷薄そうな美青年。「あんたが選べる道はふたつにひとつ。ここで狐の餌になるか。それとも、俺に盗まれるかだ。どうする、かさねどの?」盗む、っていう言葉選びがもう! 好きすぎて! 神嫁を盗み出す男。

・「ひとはひとを騙す。別の誰かのために。誰もがやっていることだ。……愚かだろ?」「イチは弔いをしていた。弔いを、していた」イチという青年は、目的のためならほかのものを傷つけることに躊躇いはないのかもしれないけれど、それは、何の痛痒も感じずにそう出来るということではきっとない。

・織の里の古い守り神・蚕神さま。里の者の旅路を守っていたのか。貢物を減らされて人への報復に出る神さまもいれば、忘れ去られつつありながらひっそりと人を見守り続ける神さまも。ひとも神も色々いる。

・「ひーみーつーじゃ。今のはのう、かさねだけの発見なのだ」かわいい、なにこれかわいい、すき。とっておきの宝物をしまいこむような、秘め事を纏って艶めくような、あどけなさの中に謎の色気が。ちょっと魅入られてしまう。

・「だから、かさねは……。なるべく、できたら、イチの願いを叶えてやりたいとも思うのじゃ」「かさねにはかさねの、狐には狐の言い分がある」「そなたの理屈は、子どもじゃ、将軍。奪われたら、奪い返せばよいのか」かさねさんって、実はすごく度量が広いというか懐の深いキャラクターだな。当然のように信じ切っていた身内から、立て続けに騙されて裏切られて、恐ろしい思いも悲しい思いもして、それなのに他者を容れるキャパシティが全く減っていないどころか、むしろ広くなっていると感じる。

・「そなたはほんに、ひとりなのだな。イチ。――ひとりで戦っている」「かさねがそなたを天都へ連れて行く」自分の意思と望みをもってイチを助けるって決めて、かさねさんはぐっと安定した感じがする。「かさねの道案内は、帰り道まで込みゆえな」「だいじょうぶじゃ。連れていくから。イチはかさねが守るから。だいじょうぶ」決して頼もしいとは言えないのだけど、必死でイチを守ろうとするかさねさんにも、それを受け取ることができないイチにも、無性にもどかしいような、くるしいような、たまらない気持ちになる。

・自分を喰おうとした神を手玉にとって、評定の場に乗り込んで、身体を張って武器の前に立ち塞がって、雲上人たちの前で啖呵をきって、まもりの衣でイチを包んで。「行けい、イチ! そなたの行く道はこの莵道かさねが見届ける!」本人は無力な少女であるはずなのに、やることがヒーローすぎるのよ…。これは惚れるしかない。

・死にゆく壱烏の目から見たイチは、一生懸命で一途で愛が重い。壱烏だけを愛するこの健気な子どもがずっと「イチ」を天都へ向かわせていたのかと思うと泣けてくる。

・「だから、どうか。このやさしい片割れを見つけて。できれば、あいしてくれる誰かに出会えますように。」イチを生かして死んでしまった壱烏と、壱烏のためにしか生きられなかったイチと、そういうイチを見つけた――「そなたが選ぶ道はふたつきり。ここでかさねに盗まれるか、今すぐ恋に落ちるかじゃ。どうする、イチ?」


【一幕 六海龍神編】

・「何でもかんでも情にほだされてると、そのうち痛い目をみるぞ。たいした力もないくせに」かさねさんって、一度喪失を経験した人間が心を預けるには怖すぎる人種よな。イチは相変わらずの塩対応だけど、かさねさんのそういう性格に苛立っている時点で大分手遅れっぽい。

・「イチがちっともかさねを見ていないのが腹立たしい。」「あやつはかさねのことなど本当にどうでもよいのかもしれぬ。たまたま来いと言うたのがかさねだから、ついてきただけなのかも。そのうち、またふいといなくなってしまうのかも」…そう言われるとちょっとそんなような気もしてくるのがイチさんの駄目なところだと思います!! そ、そんな、たまに触らせてくれる野良ニャンコみたいな性格じゃないじゃん…、どっちかっていうと、ずーーーっと渋谷駅で待っちゃうほうじゃん…。

・「かんべんしてくれ。こういうのはもう、かんべんしてくれ」「ほろほろと崩れ落ちそうなやわい声だった。」ガ、ガチギレからのそれは、まじで胸に来るから…っ。ふだんの無愛想顔がわりと鉄壁な分、そうやって無自覚に心のとてもやわらかいところを晒されるとたまらなくなる。

・「だーいじょうぶじゃ、かさねは。わりとしぶといし、機転も利くし、なによりこの美少女ぶりよ。古今東西、神でもひとでも、美少女には弱いゆえな」かさねさんの「だいじょうぶ」って、あれですね。無邪気で眩しくて尊くて、守りたいこの笑顔、みたいな、逆に死亡フラグ感漂うなにかを感じる…。かさねさんは、沢山のものを当たり前みたいに全部守ろうとするから、かさねさんを守りたい人は心臓がいくつあっても足りない。

・「かさねを取り戻す代わりに、イチは龍神を切り捨て、大地将軍に取引を持ちかけた」大事なものを守るために、優先順位をつけて取捨選択する必要があるのは当たり前のことで。「ここではない向こう側。異界に取り残された少女はひとり天を仰いで泣いている。」だけどかさねさんはどうしたって失われたものを嘆くから。少女たちの涙と引き換えにもたらされた青空と勝どきの声、コントラストがやるせない。

・「娘同様に育てたそなたをどうして龍神などにくれることができようか」そりゃあ上善さんからすれば龍神はそれはそれは呪わしかろう…。だけど、日頃からあれだけはっきりと龍神への敬慕を滲ませていた紗弓さんの思いを上善さんが知らなかったはずはないし、紗弓さんだって養父の辛酸を想像することが不可能だったわけではないと思う。「あんたたち人間を、私は決してゆるさない。」何を一番大事にして、何を一番に守るのか、誰の気持ちを優先するのか。何が正解ということはないけど、色々なものが掛け違った結果、それぞれが大切なものを失ったのだな。

・「――望みは何でも叶えられると思っていたのだ。この手で。この足で。力いっぱい飛び出せば、つかみとれると信じていた。」無邪気に傲慢にぜんぶうまくいくって信じてたかさねさんが、手痛いかたちで自分の無力を思い知って。でもだからって、かさねさんに守れるものが無いわけでも、これまでかさねさんに救われたものが無かったわけでもないのだと思う。「何もできなかったかさねを。かさね自身も諦めかけたかさねを。イチはまだ信じていてくれる。」

・「無論タダじゃくれてやらない。あんたにそれができるだけの器があったらの話だ」「受けてやろう。そなたは必ずこの莵道かさねがいただいていく!」挑むみたいな張り合うみたいなやり取り、色気はないけどバディ感強くて好き。すごく好き。


【二幕 大地女神編】

・「かさねとて、いきなり天帝の花嫁だなどと言われても、ようわからぬ。ゆえ、己のさだめとは何なのか、知りたいと思う。でなければ、ようわからぬものにずっと怯えてなくてはならないからな」かさねさんって、向こう見ずな行動が多いようだけど、あんまり迷走はしないというか。足元がおろそかになりがちなところはあるけど、手段はさておき指針だけはいつもはっきりしている人って感じがするな。

・「へらへらわらうな。きもちわるい」イチさんは、単に口が悪いとかいうレベルじゃなく根本的な言葉選びが残念すぎると思うの…。で、突 然 の 暴 言 !? と思わせておいて、意図がものすごく優しいみたいな、この、ギャップ…、これ…、なんか…これにときめいていいのか!? 「こやつ、鈍感なあほんだらのくせに」に、わかるボタン500連打。

・「ただし、男は置いていけ。わたしはそなたの首が欲しい」「……思いっきり旅の途中だし、まるでしまりのない終わり方だけどまあ……」まあ…じゃないよ! そんなテンション感で了承しようとしないで!? イチは取捨選択が早すぎるし、『自分』の優先度が低すぎる。かさねさんは、0か100か、っていうよりそもそも100しか考えてない…末っ子はつよいな。

・「いやだわ、そなたは星和以上の朴念仁なのかも」イチって、なんというか、乙女心云々よりも何よりもまず自分の感情に対して一番鈍感なんだなぁ。…とはいえこの期に及んで単純な好意レベルの自覚すら無いのはさすがにどうかと思うよ!? そもそもかさねさんについて来る気になった理由とか、かさねさんを守ることが当たり前みたいに行動基準の最優先事項になってるのとか、もしや自分でもよく分かってないの!?

・「せめてやってくるならかさねが水浴びしているときとかにせいよ!」なんという残念なラブコメイベント…「うるさい。俺の許可なく俺に勝手にひっつくな」…からのおさわり禁止令。い、今さらそんな思春期男子みたいな…!?(笑)

・「次はそなたに降りてやってもよいですよ」「断る。俺の身体は俺のものだし、その前だって少なくともおまえのものじゃない」かさねさんに対して無謀だの阿呆だのめちゃくちゃ言うけど、イチさんも大概ですよね!? このシーン、今までで一番ヒイッてなったよ!?

・「だってイチはやさしい。とても。悪いのは口だけで、ちゃんとかさねにも、かさね以外のものにもやさしい。知っている。そんなことはもう口にするまでもなくわかっている。」かさねさんは口にするまでもなくわかっているかもしれないけど、イチはきっと自分がやさしいとも、人にやさしくできているとも思っていないんではないか。なのにかさねさんが…「かさねを案じてくれてありがとうな」…ぜんぜん上手に示せてない、自分でももしかしたら気づいていないのかもしれないイチのやさしさを、ちゃんと知っているから。泣きたくなってしまう。

・「壱烏の顔でちがう女に手を出すな。胸くそわるい」不快の原因はそれじゃないわイチさん、しっかりして!? そろそろ朴念仁を通り越してポンコツ属性がつきそうだわ!!?

・「かさねも『そう』なってしまったらどうしよう。かさねはかさねであるのに、かさねではなくなってしまうのか」「おまえは俺が見失わない。何があっても絶対に」光ふる森の中、ようやく見つけた感情は。震えるほどにうつくしいシーン。


【三幕 漂流旅神編】

・天都における掟って、双子の忌まわしさ>天帝の恩寵だったり、天帝が許容したことがひとの掟で裁かれたり、なんというかあれですね。天帝は絶対的な存在ではあるけど、それとは別に、ひととして守るべき秩序はあくまでもひとが作っている感じというか。神とひとの距離が近くて、かつ絶対的に異なる存在であるからこそ、守られている線引きがあるんだろうという感じがする。

・「どこも、けがはないな」しにかけたのは自分のくせに、目をあけて一番最初にするのがかさねさんの無事を確認することとか、イチのすることって、なんでこう、腹立たしいような泣きたいようなたまらない気持ちにさせるんだ。「主人に降りかかるあらゆる災厄を退け、身代わる天の奴隷――『陰の者』ってのは、我が身は気にかけないように育てられるから、いつまでたっても、そういう考え方をするもんなんだよ」

・「荷を持つのが何でそんなにうれしいんだ……?」「うむ。うれしい。ありがとう、イチ!」かさねさんが可愛すぎる件についてー!! 全部背負ってもらうんじゃなくて、すこしずつでも、ひとつずつでも、そうやって分け合えるようになっていければ。

・「さいっ……最っっっ低じゃ!!」「どのようにとは訊いたが、同じことをせいとは言っとらん!」ど……、どっちも可哀想に………。水占の結果の回収があまりにも早すぎた…。殴られて怯えられて泣かれて、しかもいまいち拒否られた理由がわかってないの、不憫すぎて見てられないんですけど。

・「ヒト、フタ、ミツ……ってひでえ名付け方だなと思って」ほかでもないイチにそういう感覚があったとは、、いやイチだからこそ思うのかな。閉じた世界の中においてはきっと、一人目のイチ、二人目のフタ、三人目のミイ、というそれだけで十分に特別な名前だったのだと思うけど。それは壱烏との、壱烏だけとの相対関係における呼び名であって、それ以上のものではなかったのだろうから。だけどもっと広い世界で違う関係性を作りたくなったから、「壱烏のイチ」じゃない何かになりたくなったから、イチにとってはもう「イチ」じゃ足りないのかもしれないな。

・「かさねのわるいことを半分。代わりにイチのわるいことを半分。『半分こ』しよう。そなたがすべてを背負う必要はないのじゃ。かさねのわるいことを引き受けてくれたぶんだけ、かさねのよいことも半分にしよう。そうしたら、イチのよいことをかさねにも分けてくれ。きっととてもうれしくなるから」自分の全部を差し出してしまうような愛し方しか知らないイチに対して、苦楽を分け合う関係性を望んで、そういう関係を一緒につくっていこうって『提案』をするかさねさんが、泣きたいくらい尊くていとおしい。「すべて理解されなくてもいい。ただ、少しだけでも伝わっていたらいい。この男のしあわせを願っている人間がここにいることに。いつか気付いてくれたら、かさねはうれしい。」

・「あんたがやめないなら、俺もやめない」「だからずっと半分、俺にくれ。いつかこの旅が終わって、あんたが莵道へ帰るまで。つきあうから」与えるだけではなく、受け取るだけでもなく、身代わるわけでもなく。はんぶんこしよう、っていうのが、かさねさんの意図を超えて相互に分かち合うものになっていく感じがもう、、尊さの極みかと。


【四幕 神器鳴動編】

・「広い海からかさね嬢を見つけたのはわたくしなのに。かさね嬢の窮地を救ったのも、このわたくしなのに」「御礼は結構ですよ。くたばればいい、間男め」朧さん好き。かさねさんの本質を見て高く買っている感じとか、丁寧語なのに口が悪いところとか、モフモフで面倒くさくて油断ならなくてモフモフでモフモフ

・「頭を撫でてほしかった。怖かった気持ちをわかってほしかったし、あやして、なだめて、大事にしてほしかった。」「こういうときに聞くやさしい声は、普段この男のどこに眠っているのだろう。」イチさんの甘やかしスキルがいつの間にかものすごいことになってやしませんか…(慄)どんなに不機嫌でもかさねさんが落ちてると即時発動するやつ。

・「あんたは渦潮に飛び込めないわ。誰も、信じていないから。だから、あんたは負けるのよ。途中、何十回勝ったって、最後には負けるの」紗弓さまのご神託、好きすぎて震える。

・「だから、まだ。立ち上がれ。理想を描け。そこに向けて手を伸ばすのだ、何度でも。自分には、その力がある。」かさねさんは、何度裏切られても騙されても踏みつけにされても、誰かを信じようとすることを絶対にやめない人なんだよな。だけど、何の力もなくて、守りたいものも守れなくて、何度も何度も失望してきた無力な自分のことをまた信じるのは、きっと他の誰を信じるよりもずっと怖いことなのだろうと思う。それでも。「かさねはここいる者たち皆を助けたい。手を貸してくれるか?」

・「もともと、壱烏の影としてしか生まれていないイチには、ひとと交換できるような名前も、何もない。」「当たり前のことだが、何故かそのときは少しかなしかった。かさねの真名が、たぶんイチは欲しかったのだ。」知ってる、っていう短い返しが胸を突く。わきあがるもので満たされすぎて胸がくるしい。「名前を与えられた、それだけなのに。それだけのこと。」

・イチさんって、言動はツンデレってるけど内面はぜんぜん屈折していないというか、一途すぎるくせに愛され下手の子どもみたいな健気なイメージがずっとある。だから全力で幸せを祈ってしまうし、「イチ」自身がかつてないほど満たされたこの瞬間が、愛おしくてたまらない。

・「ここでしたい! ちゅう!」「俺はべつにそういう気分でも」かさねさんが今でしょって思うのも、イチには今は必要ないのも分かるけど、そこは噛み合ってくれよ…(笑)

・天 帝 空 気 読 ん で 。いやむしろ読んだからこそか、さすが大ボスこのタイミングでご降臨あそばすとは分かってらっしゃる、よろしいならば戦争だ。


【終幕 天帝花嫁編】

・「イチが『イチのもの』を手にした時間はなんと果敢なく短かったんだろう。」月のひかり降るうつくしい森の泉に、ひとり。「イチにあいたい」で染みこむように喪失感が広がって胸がじんじんする。「断たれてしまった、それがかさねの本当の願いなのだった。」

・「何も選ばないのは、いちばん、格好悪い」ここにきて自分の道を自分で選ぶのだという矜持を持てるかさねさんは、何度も傷ついてきて無力感に打ちひしがれるちっぽけな少女であるからこそ、とんでもなく強いひとだと思うし、絶対に負けない強さなんだと思う。「まだ、残っている。何を奪われても、選び取る自由が、自分には残っている。」「それはどんな理不尽も奪い取ることができない、かさねの『道』だ。」

・「さきぶれの神はほんとうに変わり者というのか……奇神変神のたぐいでな」「その、自分で剥がした魂をぽいっとそのあたりに……捨てて……しまったようでな……」な に し て く れ ち ゃ っ て ん の !? なんで星和さんがこんな気まずそうにしなくちゃならないんだ…。神さまって人から見れば大体みんな変だけど、おなじ神から「奇神変神」とかいわれる別格みたいのもいるんですね…。

・「少し、びっくりするかもしれない」の一言で笑顔のまま殺してくるの、うんやっぱり星和さんも神さまなんだね…って感じだよね。

・「そなたが帰るのはこちらじゃ。イチ。かさねはここにおる」緑が、花が、咲き乱れて、散り去ってはまた芽吹く。神々しくて美しくて、かさねさんがすっかり人ではないものになってしまったようで、だけどイチのことだけ必死に呼んでるかさねさんはやっぱりかさねさんで、息をつめて見入ってしまうような心震えるシーン。

・「あやつは壱烏のことは絶対忘れない。しかしかさねのことは。結構するっと忘れるやもしれん……」そう言われるとちょっとそんなような気もしてくるのがイチさんの駄目なところだと() かさねさんが、イチのことでときどき不安げな発言するの、恋してるなーって感じで可愛いなと思う。

・「おまえはそうやっていつもいちばんぼろぼろになる」かさねさんが傷ついたとき、犠牲をしいられたとき、そのことをかなしむイチの心が、とても清らでやさしくて、胸がいっぱいになってしまう。「ありがとう、イチ。かさねのために悲しんでくれて」

・「だから、おまえが笑ってくれる道を探してる」「じゃあ、一緒に探そう。さいごのさいごまで諦めないで探そう。約束じゃ」一緒に考えよう、とか、一緒に探そう、とか、かさねさんのそういう、いつも隣に立っていようとするスタンスが本当に本当に好きなのです。

・「かさねが食べてしまった。ゆえ、今はかさねの中におる」「それはなんといいますか、雄々しい愛の形ですね……」あ、それって神さまから見ても若干引くような感じのアレなんですね。かさね神も変神なの? 守らねばと思ったものを自分の中にのみこむ、って殆ど女神になりかけてる今だからこそ本能から出た発想だと思ったけど、そういえば大地将軍から守ろうとして口琴を食べたこともあったなぁとか思い出すなどした。

・「道はつながっておるぞ、イチ。かさねはかさねの道を。そなたはそなたの道を。だーいじょうぶじゃ。一度離れたくらいでそう簡単には途切れぬ。もし見失っても、またかさねがそなたを見つけてやる」かさねさんの言う「だいじょうぶ」は、いつも全然違うのに、いつも心をざわつかせる。自分の恐れを必死にねじ伏せるようであった時も。無邪気に自分の力を信じきっているようであった時も。そして今は、慈しむような宥めるような愛おしむような温度で。「そなたの道はこの莵道かさねが見届ける。だから、イチ。安心して行けい!」

・「迷いながら、泣いて、あがいて、考えて、選びとった道をかさねて、かさねて、今、この場所に立っている。」「選び続けた、望み続けた、その道の先に立っている。」「だから、泣かない。さいごまで笑って、この道果てまで駆け抜けてやる。」押しつけられた道を泣いて受け入れるのではなく、みずから笑って選び取るかさねさんは最高に格好いいし、そういうかさねさんの願いを容れて、その先の孤独も苦痛も知っていて、それでもかさねさんの行く道を切り拓く選択をするイチはすさまじくいい男。

・最高神と真正面から渡り合って、壊れた世界をつくりなおし、新しいことわりを定めて、あらたな大地にことほぎを。神としても規格外のことをやってのけた、豪快で奔放で強く慈悲深い女神が、イチの前ではたちまちただの少女に戻ってしまうのが、さびしさに泣いて、泣きながら途方に暮れてわらうのが、たまらなく胸を締めつける。

・黄泉の国のお出迎えは。………女神のかけら? わらわらとかしましい童女たちのかたちが、なんだかとても「らしい」ような。すっかり変質してしまったようでいて、まるで何も変わっていないような。ああかさねさんがいるなぁって思って、それだけでもう泣きたくなる。

・「“あんたが選べる道はふたつにひとつ”―――俺に盗まれるか、自分で俺の手を取るかだ。どうする、かさねどの?」黄泉の国まで女神を盗み出しにきた男。ここでその台詞に戻ってくるとか……いやいや…いやいやいやもう……すき(語彙力)

・「隣にいてくれ、ずっと」「もちろんだとも!!」幸福感があふれてやまないエンディング。さいわいあれ。



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