【中短編】凍土に咲く花、君の声
2020年5月15日
王宮や王族に失望し続けてきた近衛騎士が、冬の王宮で強くて優しい花に出逢う物語
作品名 | 凍土に咲く花、君の声 |
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作者 | 雨咲はな |
文字数 | 約7万3000字 |
所要時間 | 約2時間30分 |
ジャンル | 恋愛(異世界) |
作品リンク | 小説家になろう |
レビュー
ずっと長いこと胸の奥で鳴り続けていた寒々しい風の音が、ようやく止んだ気がした。
寒く貧しい北の小国で、大国からの断れない縁談を厭い、若い近衛騎士と共に行方を眩ませた王女。その不在を誤魔化すための身代わりとして王宮に連れてこられたのは、優美で淑やかな王女とは顔しか似ていない、陽気でおしゃべりな村娘だった。醒めた目で王宮のありようを眺める王女付きの近衛騎士は、馬鹿げた茶番に無関係の娘を巻き込むことに苦々しい思いを抱きながらも淡々と職務をこなすが…。
本来誰よりも国の為、民の為に尽くすべき立場にある者たちが、自分たちだけがぬくぬくと過ごすことに何の疑問も抱かず、ただ無思慮に国を危険に晒し、無造作に命を踏み散らしていく。多くの不条理を呑み込んできた男の目を通して克明に描き出されるその残酷な現実の中に、他人の心を真摯に慮れるまっすぐな少女の存在が明るい光を灯していて、それがとても尊く愛おしい。
守るべきものを見失い漫然と生きてきた男が、自分の居場所に辿り着くまでの物語。