【中長編】朝が来れば、そこはもう人の場所 : 閑人書房

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【中長編】朝が来れば、そこはもう人の場所

2020年9月3日 

わがままで女たらしな武王と勝気で勇ましい戦姫の和風恋愛ファンタジー


作品名朝が来れば、そこはもう人の場所
作者円堂豆子
文字数約11万3000字
所要時間約3時間45分
ジャンルラブコメ(古代日本FT)
作品リンクカクヨム

レビュー

……きっとあたしは、この男のそばで人生を過ごすためにここにいる。


出雲の兵の頂点に立つ武王・穴持に妻問いをされた須勢理姫。父である須佐乃男には「お前の手には負えない」と言って止められたが、出雲一強く華々しい男に運命を感じた須勢理は、反対を押し切って彼のもとへ嫁ぐことを決める。しかし武王の住む杵築の雲宮へやって来てみると、そこには既に大勢の妃たちが暮らしており…!?

圧倒的な自負と自信をもって他者を従わせる戦神のごとき男に嫁いだ姫君は、弓の名手で気が強い跳ねっかえり。気が向かなければ大勢の妃の中のひとりになど目もくれない夫に傷つく少女らしい繊細さと、死の蔓延る戦場を真っ直ぐに見据えようとする研がれた刃のような鋭利さに、惹きつけられずにはいられない。
女を追ったことなどない俺様男のいっそ突き抜けた傲岸無神経ぶりと、怒り狂って反発する姫君のやり取りに笑いを誘われる和風ラブコメディ。

戦場に君臨する神獣と聡明で凛々しい戦姫、二人を結び付けた運命の軌跡をたどる物語。

(※「出雲国風土記」「古事記」等に登場する大国主神(大穴持命)とスセリビメをモチーフにした古代日本ファンタジー)

キャラクターpickup
須勢理すせり
「やっぱり、あたしは悪くない! 腹が立つ、あの野郎!」
「平気よ、いこう? この先に罪があるなら、あたしがかぶってあげる。だから、脅えて震えあがって、あなたたちが傷ついてしまわないで」
「どうしてあたし、あんな奴を好きになっちゃったんだろう」
…須佐乃男(すさのお)の娘。顔立ちは母譲りで儚げな風情だが気性は苛烈、聡明で凛々しい姫君。弓の名手で、狩りを遊びとして育ち、戦場に憧れていた。
穴持なもち
「おれがこの手で何千人の命を奪おうが、おれはそのぶんの出雲の人間の命を守っているはずだ。死神は裏を返せば守り神だよ。それのなにが苦しい? 誉れだよ」
「いくぞ! 戦が原から、伊邪那(いさな)を追い払え! 残りかすのごみどもを、根こそぎ死の国へ送ってやれ!」
「幾千人の兵が、揃っておまえに惚れたようだぞ? ……気に食わんな。おまえはおれの物なのに」
…出雲の西半分を領地として君臨する、歴代屈指の武王。「武王になるために生まれてきた神獣のような男」と評され、兵たちの畏怖と尊崇を一身に集める傑物だが、自信家で気まぐれでわがままで女たらし。
安曇あずみ
「戦にいくっていうのに、そんなに喜んで。本当に、物好きな姫君もいるもんだね」
「従いなさい。これ以上無駄口をきくなら、あなたを連れてはいけない」
「まったく、穴持様の気が知れないよ。どうして今日の戦にまで須勢理様の出陣を許すかなぁ。しかも先陣にとか……」
…穴持の腹心。戦の前線で指揮をとる優秀な武人で、一見すると温厚な風だが容易に人を懐にいれない、結構な曲者。

関連作品
【大長編】クマシロ
…穴持様と須勢理姫の娘・狭霧の物語。次代を担う子どもたちの成長と出雲の継承劇を描く壮大なスケールの和風ファンタジー。

(作中時系列は「朝が来れば、そこはもう人の場所」→「クマシロ」です。どちらも単品で読めます。)

・一目惚れ相手に嫁いできた姫君の物語…としては、初っ端からえらい出鼻くじいてくる(笑)

・基本的に相手が従わないとは思ってもみない俺様何様穴持様。言動がふつうに最低なの、腹立たしいを通り越してめちゃくちゃ笑える。

・かっこいいからって何しても許されると思うなよ。

・理性的に振る舞っていた聡明な姫君をブチギレさせる無神経さ…。「あの野郎」とかって口汚く罵倒されてんの笑う。もっと言ってやって(笑)

・戦場の別世界感にぞわぞわする。武王・穴持様の圧倒的カリスマ性。

・頭に血が昇るにまかせて、食べられない獲物(人間)を狩ってしまったことに動揺する須勢理姫。戦場で見事な手柄をあげた後に、われに返ってしごく真っ当な価値観でどうしようどうしようってなるところ、好き。

・武王としての穴持様まじでかっこいいな。守り神としての自負。

・兵のひとりとして戦場に立つ身でありながら、武王の理論は一方では正しく一方ではひどい間違いだ、って冷静に考えられる武王の妃。

・戦場の兵たちをことごとく虜にする須勢理姫。凶暴な獣のようであったり、ただの少女のようであったり、凛々しい女神のようであったり。

・他の何を赦しても武王として不甲斐ない振る舞いだけは赦しがたい。そこが臨界点だった須勢理姫。そしてだからこそ、根っからの武王である男に惚れこまれる。

・須勢理姫の罵倒、気持ちいい。穴持様が押されてんの、ほんと気持ちいい。いいぞもっとやれ(笑)

・穴持様に追いかけさせて、ここまで言わせても、乙女心がもはや戻ってこない須勢理姫。狩人系女子つよい。

・腹黒陰険な腹心にチクチクやられてワナワナする穴持様。そういう力関係だったんだ…(笑)

・女が自分に対して怒っているとくれば、理由は嫉妬しかないと思っている穴持様。そんで須勢理姫が何怒ってんだかわかんなくて不貞腐れるところ…ここまで来るといっそ可愛い。

・須勢理姫の懐の深さ、ほんと惚れる。こんな男に引っかかっちゃって…とも思うけど、お互いにこれくらいの相手じゃなきゃ到底釣り合わない感もある。

・こういう運命だったのか――って、さ、最終的にそんな納得の仕方しちゃうんだ…!?(爆笑)

・須勢理姫に笑って欲しい穴持様。と、なんだかんだ笑っちゃう須勢理姫。←すき

・最愛の妻に、「いつ気を変えて私に見向きもしなくなるか分からない」って常に思われてる穴持様。信用云々の問題じゃなく、もうそういう生き物として見られてる感…。

・そうなったらすごく傷つきはするだろうけど、でもそれはそれでしゃーない、って割り切っちゃってる須勢理姫つよい。

・「ふりでいいから喜びなさいよ」とか言われる穴持様。そして頑張って喜ぶふりするけどぎこちない穴持様。このやり取りめちゃくちゃ好き。

・穴持様が人に合わせる努力してるの、なんか感動する。けど、単に須勢理姫を怒らせたくないだけ、ってあたり、なにかが根本的に間違ってる(笑)

・でも最終的に「しょうがない人だなぁ」ってなっちゃう須勢理姫。はー好き。



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