【中短編】楽土 : 閑人書房

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【中短編】楽土

2020年9月13日 

無垢な少女と盗人の青年の、幸福を識るお伽噺


作品名楽土
作者雨咲はな
文字数約5万9000字
所要時間約2時間
ジャンル恋愛(異世界FT)
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レビュー

世界はとても美しいのだということを、はじめて知った。


物心つく前から薄暗い地下室に閉じ込められて育った少女・ディー。そんな彼女を、ある時たまたまうっかり見つけてしまったのは、屋敷に忍び込んで来た盗人稼業の青年だった。
監禁された子どもを捨て置けなかったお人よしな泥棒さんによって地下室の外へと連れ出され、まっさらだった少女の世界は、ひとつひとつ色づきだす。

「仕方なく保護しただけの厄介者」だったはずの子どものことで、あれこれ心配してはやきもきする青年と、たどたどしくも生きることを覚えていく子どもの、ちょっとおかしな共同生活。「さみしい」だとか、「うれしい」だとか、そういう感覚自体を生まれてはじめておぼえる女の子が、その「よくわからない変な感じ」をつたなくたぐっていく姿が、いとけなくて胸がつまる。
寄り添い合って見上げる星空の美しさを知った少女はやがて、その感情の呼び名を知る――。

運命に翻弄された少女が幸福の在り処を見つける物語。

・外に出るのも初めてなら、どきどきするのも初めてで、何かを感じるということ自体に慣れていない。無知で無垢な女の子。

・「精密で厳重そうな錠」を見つけて、弄り回してみたい欲に勝てなくなっちゃうアルさん…。ただ開けてみたくて開けちゃうとこ(しかも忍び込んだ貴族のお屋敷で…)、少年っぽさが出てて好き。

・うっかり見つけてしまった監禁少女を外に出してやったり、いったん放置したくせに結局心配になって戻ってきちゃったり、「明日には気が変わるかもしれない」とか念押ししてきたりする面倒くさい人…。自分のお人よしぶりに振り回されているなぁ。

・大の字でいぎたなく眠る女の子…野生の猿ならもうちょっと警戒心あるんじゃないですかね(笑)

・能動的に動くということを知らないディー。普通は本能で生きようとするものだと思うけど、この子は生きようとすらしなさそう。生存競争に勝てる気がしない…。

・子どもたちに交じって遊ぶディーを、物陰からはらはら見守るアル。と、そんなアルを「アホだな」と思いながら見てるイーガル。←すき

・「さみしい」も「うれしい」も「すき」も、ディーはまだうまく認識できない。色々なことがつたなくて、いとけなくて、愛おしさに胸がつまる。

・会えなくなるのはイヤだなぁって思ったひとが隣にいて、空には星が光っていて、そうして初めて世界の美しさを知る少女。なんにも知らなかったディーが普通ににこっと笑って「綺麗だね」って言うシーン、好き。

・アルの、そつなく生きてそうに見えて人一倍愛情深いところ、すごーく好きだなぁ。イーガルの下で盗人稼業を始めたことにしろ、ディーを手放そうとしたことにしろ、こころが全力で相手に寄り添っていて、大事な人をどうやって大事にすればいいのか、ものすごく色々考えてる感じがする。そして多分考えすぎてるときも多いんだろうなぁって感じもする(笑)

・ディーからアルへ、届くことのない手紙。成長して、言葉をたくさん覚えて、色々なことを考えられるようになっても、ずーっと変わらずに帰りたいと思い続けているのが切ない。ようやく「生きる」ことを知ったばかりだった十三歳の女の子に、その後新しい喜びも優しい出会いも、ただのひとつもなかったのかと思うと胸が痛む。表に出されることのない王女だから、関わる人間も限られていて、狭い世界に閉じ込められてしまっていたんだろうな。「さみしい」を知っているディーがひとりぼっちで三年も過ごしたかと思うとたまらない。

・とらわれのお姫様を盗み出しにきた盗人。奴は私の心も盗んでいきましたーーー!! このシーン好きすぎる。ときめきが止まらない。

・今度こそ、自分で選んで外に出る少女。どうすれば笑えるかは知っている。あなたが好きだということを知っている。幸福の在処を、知っている。



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