【短編】毛むくじゃらさん
異形の娘とひねくれ者の王様の、自分と向き合うためのお伽噺
作品名 | 毛むくじゃらさん |
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作者 | 葉山郁 |
文字数 | 約1万3000字 |
所要時間 | 約25分 |
ジャンル | 童話 |
作品リンク | 氷の花束(※トップページ) |
「それは無理です。はじめにお会いしたときに、お城の中には決して入らない約束をしましたから」
あるとき森で出会った魔女に子供を授けてやると言われた老人は、教えられた通りに樫の木を斧で傷つけ、流れた血を妻に舐めさせる。そうして生まれてきたのは美しく魅惑的な双子の娘と、もうひとり――。
舐めてはならぬと言われた樫の木の血の三滴目から生まれた全身毛むくじゃらの娘は、すくすくと見上げるほどの大きさに育ち、「毛むくじゃらさん」と呼ばれて家族たちに愛された。そんな毛むくじゃらさんは、あるときお城へ仕事をもらいに出かけ、とても偏屈な若い王様と出会うが…?
たいそう気立てが良くて働き者の毛むくじゃらさんは少しずつお城の皆に受け入れられていくが、王様と最初にかわした約束のとおり、決してお城のなかに入ろうとはしない。
自分の気持ちをみずから貶めてしまうようなひねくれ者の王様は、自分の望みと正しく向き合うことが出来るのか?
ちょっとだけ痛快で微笑ましく、ほのぼのとあたたかな御伽噺。
・声をかけた相手が善き人であったことに忌々しそうな反応をする魔女さん。そこでカエルの王子様を引き合いに出してくるのは笑ってしまう。口の悪いへそ曲がりの魔女さん、好き(笑)
・森の木よりでかいもふもふの毛玉…その時点で最高じゃあるまいか?
・魔女に禁じられたことをした結果なのだから、もっと不吉な事態になってもよさそうなのに、このほのぼの感…(笑) 異形の娘を忌まわしいものとして扱わない夫婦の善良さのなせるわざか。
・とても偏屈で底意地の悪い王様、すてき。「世はすべて事もなし」
・熊手を片手に出陣する毛むくじゃらさん…なんだろうこの妙に牧歌的な光景は(笑)
・あくまでも、自分がそう望んでいるのだとはいわない王様。愛することに理由と言い訳が必要な面倒くさいひと。
・そんな愛は薪にくべて燃やしてしまえ…的な……? 毛むくじゃらさんは、基本的には寛容すぎるくらいのひとなのに、王様の偏屈に対してはめちゃめちゃ手厳しいな?(笑)
・王様は、毛むくじゃらさんのことはちゃんと見てるんだけど、自分自身のことは全然見ようとしてないというか、「人の見た目に惑わされない」という唯一最大の関門はすんなりクリアしてるくせに、自分で自分の美質を貶めてハピエンを遠ざけている、みたいな感じがするなぁ。
・この場合、毛むくじゃらさんが毛むくじゃらであることは忌むべき要素ではなく、むしろ能力的な利点を象徴する特異性であって、その特異性を失って美しい本質だけが残ったときに、王様が強制的に自分の気持ちと向き合わされる…的な解釈なのかなぁ。燃えてなくなったものは何だったのか、はいろんな考え方ができそう。
・ベストオブもふもふヒロイン…けも耳どころの騒ぎじゃないな。原型がカナダの民話といわれると、あー…って感じがする、なんとなくほのぼのした雰囲気のお話。
・でも火あぶりって大分えぐいな。ストーリーラインはカエルの王子様と同型っぽく見えなくもない。「困っていたところを異形の化け物に助けられる→報酬として結婚する流れになる→恩人の化け物を火あぶりにする→化け物が美しい娘の姿になる→結婚する」原型の民話も読んでみたいなぁ。